租税法規と信義則(信義誠実の原則)

信義則(信義誠実の原則)とは、お互いの信頼を裏切らないようにしよう、という法の一般的原則をいいます。

民法1条2項に「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」と定められています。

 

この一般原則が租税法規(税務)の場面でどのように働くかという点については、限定的に機能するものと理解できます。

 

判例(最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決・訴月34巻4号853頁)に指針が示されていますが、要約すると以下の通りです。

① 税務官庁が納税者に対して信頼対象となる公的見解を表示した

② 納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づき行動した

③ 後で表示に反する課税処分が行われ、納税者が経済的不利益を受けた

④ ②について納税者に帰責事由がない

 

何が「公的見解」となるかが重要ですが、通達や事務運営指針はこれに該当すると理解されるようです。

 

一方で、信義則の適用が否定された事件があります(最高裁平成27年6月12日第二小法廷判決・民集69巻4号1121頁)。

平成17年に匿名組合に関する通達改正が行われているのですが、納税者が平成15年分~16年分の申告を改正前通達に従って行ったところ、後日これについて税務官庁より更正処分を受けたというものでした。

納税者は「公的見解」に基づいた申告を行ったわけですが、信義則の適用は(原審で)否定されており、最高裁でもこの判断を認容しています(ただし、過少申告加算税の賦課は否定)。

 

原審(東京高裁・事件番号平成22(行コ)403)の判断は、以下のようなものです。

まず、「租税法律関係における法律による行政の原理、特に租税法律主義の原則を考慮すると、この法理の適用に当たっては、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別な事情があることを要するのが相当である」と述べたうえで、先の最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決にて掲げられた要件を列挙しています。

そして、信義則の適用を否認した理由としては、

旧通達が取扱いの内容を画一的に規定しているわけではなく、

旧通達下においても、課税実務上は異なった処理(=後日更正された内容と同様の処理)を行っていることが多かった

こと等を挙げています。

 

なお余談ですが、国税庁や大阪国税庁職員が執筆した書籍に基づいた処理をしたことを納税者は主張しましたが、高裁からは、これが「公的見解を表示したものとは到底いうことができない」と否定されています。

これは税理士の間では常識的な話かもしれませんが、注意したいところでしょう。